【特集記事】SAKURAGUMI

S.A係長

点から線、面へとつなぐ、日本のナポリ・赤穂の魅力

Slope × Sea

語る人 オーナー 西川明男さん

(SAKURAGUMI)オーナー 西川明男さん

赤穂御崎の風景を「ナポリそのもの!」と惚れ込み、街中から店を移転させた『SAKURAGUMI』の西川明男オーナー。ポツンと一軒家だった所に人が集まるようになり、やがてカフェや雑貨店もオープン。「点」から「線」となる『きらきら坂』に生まれ変わらせた。さらに宿泊施設など赤穂の魅力を体験できるスポットを増やし、海沿いを周遊して「線」を「面」へとつなぐ、新たな観光スタイルをめざしている。

20年待って手に入れた「日本のナポリ」

赤穂市の南東、播磨灘に突きだした赤穂御崎にあるイタリアンレストラン『SAKURAGUMI』は、ナポリピッツアと海鮮ナポリ料理で全国区の人気を誇る名店。テラス席から青く輝く瀬戸内海が一望できる、抜群のロケーションが評判だ。オーナーの西川明男さんは「ここから見る景色はイタリアのナポリそのもの!」と30年以上、発信し続けている。
1981年、西川さんが21歳で開業した『SAKURAGUMI』は当初、赤穂城そばの街中で営業していた。店を立ち上げて10年経った頃、本場イタリア料理の味を身につけようとナポリへ渡航。そのときに見たキラキラと輝く海の風景が地元の海岸風景と重なり、何が何でも赤穂御崎に店を構えようと決心する。ところが移転は簡単には叶わなかった。国立公園に指定される御崎では店舗の新築が難しかったからだ。温泉旅館や企業の保養所などが連なる御崎に、店を開業できる場所が空くのを待ち続けること20年。2010年、ようやく今の場所を手に入れて店舗を移転させる。
「もともと企業の保養所だった所で、長らく使われず廃墟化していました。周りに店は一軒もなく、同業者からは“人も来ない赤穂の端っこで商売するなんて、きっとつぶれる”と陰口をささやかれていましたからね」と当時を思い出し、西川さんは可笑しそうに笑う。

(SAKURAGUMI)店看板 青く輝く瀬戸内海が一望できる抜群のロケーション

知れば知るほど、赤穂とナポリはそっくり!

しかし西川さんは、自分が「日本のナポリ」と称して惚れ込んだこの場所に自信があった。
「家島がカプリ島、小豆島がイスキア島という具合に、アマルフィの海岸線と同じ素晴らしい眺めが広がっています。例えば、瀬戸内の広島も目の前に宮島があって、“同じような景色じゃないの?”と言われますが、近すぎるんです。絶妙な距離感で島の景観を楽しめるのが赤穂の良さであり、私が日本のナポリと断言する所以です」。
景色や地形が単に似ているだけでなく、他にも色々な共通点があった。ナポリに友達や生産者の知り合いが増えるにつれ、赤穂と似ているという感覚を強めていったという。
赤穂市もナポリも温暖で、年間を通して降水量が少なく、日照量が多い。そのため赤穂はミカン、ナポリはオレンジと柑橘類の栽培が盛ん、近辺では高品質なオリーブも生産していて、海で獲れる魚もよく似ている。またナポリがイタリア人のソールフード、乾燥パスタの発明地であるように、赤穂近郊の小豆島や姫路がそうめんの名産地であるという具合に、食文化も驚くほど似通っているのだ。
「ナポリで食べた料理を、ここ赤穂御崎の店で提供しよう」。バターやスパイスをあまり使わず、素材の味を引き出すナポリ料理は日本人の口にも合うはず。西川さんは、ピッツァや乾燥パスタを発明した偉大なナポリをリスペクトして、本場ナポリの味を追求し続けることを誓った。

(SAKURAGUMI)御崎 「赤穂御崎の眺望は、カプリ島やイスキア島を臨む、ナポリの海の眺めにそっくり」 (SAKURAGUMI)テラス席 暖かい季節はテラス席でのんびり食事するのが最高 (SAKURAGUMI)外観 赤穂は火山噴火でできたカルデラの中にある町で「赤穂御崎温泉」が評判。ナポリも火山の町で、映画『テルマエ・ロマエ』で描かれたように古代ローマ時代から温泉施設が栄えるなど、歴史や暮らしに共通点が多々

赤穂イタリアンへ誘う、絶品ナポリ料理

数々のメディアで紹介され、予約困難な超人気店の地位を確立した『SAKURAGUMI』。絶好のロケーションにナポリから取り寄せた窯で焼くピッツァ、地元で揚がる海の幸をふんだんに使った海鮮ナポリ料理が相まって、さながらナポリにいるかのような気分を味わえる。
メニューのなかでもピッツァは別格だ。真のナポリピッツア協会の日本初の認定店であり、日本で同協会を広めてきた老舗。その貫禄の味はひと口食べれば、納得できる。モッツァレラチーズの旨味とトマトソースの甘味や酸味が一体となり、直径30センチほどのボリューミーなサイズでもペロリといける。
「ナポリでレストランを営む友人達がうちの店に来ると皆、感動します。『ナポリといっしょ!』と言う友人に、『おまえの店より、いいだろう』とジョークで返すのがお決まりです」。
ナポリっ子も認める絶景と料理、そして西川さんが創りだす陽気な空気感、ここには赤穂にしかないイタリアンな世界が広がっている。

(SAKURAGUMI)マルゲリータ 『ピッツア マルゲリータ1,650円』。ナポリ直輸入の粗引きの粉や天然酵母に赤穂の塩を使用し、注文が通ってから生地を伸ばして、焼き上げる (SAKURAGUMI)ピザ窯 ナポリ直送のドーム型薪釜。薪窯の温度管理や焼きの技術にもこだわり抜く (SAKURAGUMI)ピザ窯アップ ほんのり鼻に届く薪の香りも美味しいスパイスに (SAKURAGUMI)テラス&ピザ 「天気が良ければナポリにプチ・トリップ出来ますよ」と西川さん

『きらきら坂』や『太陽の小路』で点から線へ

西川さんは自身の店のみならず、地元・赤穂御崎の活性化にも取り組んでいる。店横の坂道もその一つ。伊和都比売神社の境内から海岸へ、センスの良い雑貨店や小物店が立ち並ぶ坂道を『きらきら坂』と命名し、周辺店舗と実行委員会をつくり、整備に尽力している。
「朝、店に向かう坂から見た海がきらきらと輝いていることから命名しました。周りにお店ができ、人が集まるようになったこともあり、市と協議してコンクリート敷きから石張りの道へ、さらに階段をタイル張りに。今では週末には2000人ぐらいが訪れる人気観光スポットとなっています」。
赤穂御崎は朝日の名所であり、さらに夕陽も美しく『日本の夕陽百選』にも選ばれている。朝の日の出&夕方の日の入りの両方の絶景が楽しめる贅沢な立地なのだ。
「僕は店の前を東西へのびる遊歩道を、秘かに『太陽の小径(こみち)』と呼んでいます。朝から夕方までずっと陽があたり、影になることがない。潮風と太陽を体感できる最高の散歩道なんです」。

(SAKURAGUMI)坂に立つ西川さん 西川さんが命名した『きらきら坂』。移転以来、長年その整備に取り組む (SAKURAGUMI)キラキラ坂 輝く海が美しい『きらきら坂』。毎月第三日曜には朝市「御崎マルシェ」を開催。西川さんや坂の店の人達を中心に、地域の商店や作家さん達が出店※写真は平日時 (SAKURAGUMI)キラキラ坂 『SAKURAGUMI』の姉妹店のジェラートショップ『scio scio』、ガラス工房『御崎ガラス舎』、カフェ『海と坂と』など、話題のお店がズラリ (SAKURAGUMI)キラキラ坂 『きらきら坂』というネーミングもタイルも、かわいい!インスタ映えスポットとして大人気 (SAKURAGUMI)太陽の小路 「『太陽の小径』を多くの人に歩いて、海を体感してほしい」と西川さん

交流人口の拡大に貢献していきたい

赤穂御崎を観光の拠点として人が集まり、町を回遊してもらう、交流人口の拡大に役に立ちたいと語る西川さん。赤穂御崎では釣りや海水浴ができ、さらに赤穂温泉というお楽しみもある。単にピッツアを食べて海を見て帰るだけでなく、食事をして海遊びをして夕焼けを見て宿泊し、そして翌日の日の出も楽しんでほしい。そのために人が集まり、ぐるぐると動き、滞在日数やリピーターの増加を促す仕掛けを考える。
西川さんの赤穂の魅力化計画は拡大中だ。最初はポツンと『SAKURAGUMI』だけだった「点」は、店が増えて『きらきら坂』という縦の「線」となり、さらに新しいスポットを増やして横につなげることで、回遊できる「面」へと広げていく。点と点をつなぐ線や面の中で海や太陽の光を感じたり、地域の人とふれあったりする様々な体験が、訪れた人に赤穂の魅力を感じてもらえる要素になれば…。
その考えの根っこには自分が大好きな場所で好きなことをしたいという想いしかない。ビジネスとして利益の創出にとらわれすぎると、堅苦しいことしかできないからだ。
「遊びの要素を入れながら、『やってみたいね!』とワクワクすることに挑戦する方が皆の共感を得て、結果的にはいい方向に進んでいく」と語る西川さん。豊かな発想力と行動力を持った、地域のリーダー、西川さんの今後の活躍に期待がふくらむ。

(SAKURAGUMI)オーナー西川さん 「官民問わず地域を挙げて知恵をどんどん出していくべき」と話す西川さんの視線は常に赤穂の未来を向いている

Sustainable

赤穂の方言をサステナブル

赤穂播州弁を何らかのカタチで残していきたいと西川さん。姉妹店『坂利太(サリータ)』の看板スイーツに赤穂弁の『てーてってー』と名付けたのもそのためだ。「てーてってー」は「連れてって」意味し、赤穂の土産として市外へ連れ出してほしいという願いが込められている。西川さん曰く、一番有名な赤穂弁は「でえしょん」。「What are you doing?」とか「Hello!」という意味のほか、「あほちゃう!」という使い方もあるそう。「どないしよるん?」がなまったものという説もある。
「赤穂出身の人が北海道でワインを創っていて、商品名に『でえしょん』を採用している。フランス語だと思っている人も多いのかも」と西川さんは笑う。『てーてってー』に続く赤穂弁を商品名にした新製品も考案中。食べて、話して、お土産に、赤穂を感じられるものを、もっと創作していきたいそう。

坂利太(サリータ) 姉妹店にあたる「坂利太(サリータ)」はナポリ伝統菓子『アラゴスタ』の専門店。古き良き港の町並みが色濃く残る赤穂市坂越に店を構える ナポリ伝統菓子『てーてってー』 牡蠣の貝殻の形をしたナポリ伝統菓子『てーてってー』

基本データ

●SAKURAGUMI
兵庫県赤穂市御崎2-1
0791-42-3545
13:00~、18:00~19:30LO(ピッツァのテイクアウトのみ)
※ランチはシェフのおまかせコース1人6,300円(食前のワンドリンク付き)。要予約・1日10名様限定。
※ディナーは新型コロナウイルスの感染拡大防止の観点より休止となっている場合がありますので、最新の情報につきましては、直接、店舗までお問合せください。
毎週火曜、第1水曜、第3月曜・水曜定休※祝日の場合は翌日休業

S.A係長

若輩者ですが、頑張ります👍