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【特集記事】有限会社大河水産
見習いR.O.
山から川、そして海へ。豊かな自然が育む極上牡蠣
Sakoshi × Sea
坂越の一年かき
語る人 有限会社大河水産 牡蠣漁師 大河弘樹さん
「甘い!」。撮影用に割ってもらった牡蠣の身をツルンと食べて、最高の笑顔を見せる大河さん。赤穂の坂越湾で育った牡蠣はクセがなく、美味しい!とリピするファンが多数。別名「一年かき」と呼ばれ、赤穂の自然の恵みと漁師さん達の愛情をぐんぐんと吸収し、一年でふっくら栄養満点の一粒に育つ。
受け継がれる漁師の歴史
「今年の牡蠣の出来はいいですよ。寒い時期を過ぎて暖かくなり、大味になる牡蠣が少なくない今の時期(取材時は3月下旬)でも未だに甘味が強いです」と大河水産の牡蠣漁師、大河弘樹さん。
18歳で牡蠣漁師になって16年目。祖父も父も漁師だったが、家業を継ぐぞ!という堅い意志があったわけではない。「大学受験の模試を受けたものの、いい判定がでなかったから。勉強するよりもカラダを動かす方が好きだったし、船にのって働く屋外の仕事は性に合っていた」と笑い飛ばす。
ちょうど坂越全体の牡蠣漁が事業として軌道にのってきたときと仕事を始めるタイミングが合致したことも、やる気モードに拍車をかけた。牡蠣の名産地として知られている兵庫県の相生市や岡山県の瀬戸内市や備前市などと並び、地域ブランドとしての人気が定着した『赤穂市・坂越のかき』。漁師さん達が丹精込めて育て、厳選した牡蠣だけが全国へ出荷され、多くのファンの舌を魅了している。
「手を抜くとそれだけのものにしかならないし、逆に手をかければかけるほど、質のいいものができる。ダイレクトにわかるのが仕事の醍醐味」と語る大河さんは、今や大河水産の後継者としての顔をのぞかせる。
牡蠣漁師の大河弘樹さん。荒々しい海の男というよりも人懐っこい優しい笑顔が印象的 生食可能な殻付き牡蠣 坂越の海の駅には沖に出てた牡蠣漁船が次々と戻ってくる 地域ブランドとして人気が定着した『坂越のかき』
全国的にも珍しい「一年かき」
通常、牡蠣は出荷までに2、3年を要するが、『坂越のかき』は1年という短期間で立派なサイズに育つ。養殖期間が短いゆえに、牡蠣特有の磯臭さやえぐみがなく、ミルキーで甘い。うま味は大きいがクセはなく食べやすいので、牡蠣が苦手だった人がファンになるケースも多いと言う。
坂越牡蠣漁の仕事は、ゴールデンウィーク頃のタネつけから始まる。ホタテ貝の貝殻に牡蠣のタネをつけ、イカダに吊るして稚貝を育てる。8月末頃まで穏やかな湾内で育て、台風シーズンが終わった9月半ばにイカダを沖に出し、身を太らせる。そうして早いものでは10月頃から水揚げ作業がスタートする。
「走りと呼ばれる11月頃は若く小ぶりなフレッシュ牡蛎、そこから寒くなるにつれてだんだんと大きくなり、うま味も増していきます。水温が下がる1月2月には身の引き締まった甘味の強い牡蠣となり、春の大きく育ったものはザ・牡蛎という貫禄。名残りの4月〜5月まで、大きさ、味、食感が異なる様々な牡蠣を楽しめます」。
「牡蠣の磯臭さが苦手…という人でも『坂越のかき』は美味しい!と感動されますね」と大河さんは胸を張る 揚がったばかりの牡蠣の殻にはフジツボや藻などがぎっしり。それらをきれいに取り除いて出荷
一年で大粒に!育てる力の強い海
一年という短期間で育つのは理由がある。坂越湾には、日本名水百選にも認定されている千種川をはじめとする播磨五川が流れ込む。川の上流には宝珠山や茶臼山などの広葉樹林が広がり、山の栄養分をたっぷり含んだ水が川から海へと届けられてプランクトンが育つ。それら豊富なエサを食べて、大粒の美味しい牡蠣になるのだ。
穏やかな気候も牡蠣を育てる好条件となっている。瀬戸内海でも波が少なく、穏やかな坂越湾が弧を描くように広がる環境。湾内に浮かぶ生島(いきしま)が風よけとなり、稚貝が落下しないよう守る役目を果たす。
「かつては漁師が山に樹を植えていたそうです。先人達のおかげで樹々が育ち、豊富な栄養分が山から運ばれてきて、牡蠣を育てる力の強い海となった。皆で守ってきた恵みの海を保ち、この先も美味しい牡蠣を提供していきたい」と意気込みもたっぷり。
牡蠣の質を落とさないために、牡蠣の養殖イカダの数を増やしすぎないように調整を行う。常に安定して美味しい牡蠣を出荷できるように、坂越の牡蠣漁師達が一丸となって、クオリティの高い牡蠣を作ることに全力投球している。
魚が集まる「魚つき保安林」に覆われた生島や周辺の山々の樹の栄養が海に恵みをもたらす 現在、坂越には14業者が150台のイカダで牡蠣養殖を行う。 イカダに牡蠣のロープを吊り、タネつけから半年かけて育てていく 牡蠣の水揚げにはクレーンがついた専用の船で向かう
魅力いっぱい、牡蛎の美味しい食べ方
「生牡蠣はもちろん美味しいけれど、実はベタな牡蛎フライも大好き」と大河さん。『坂越のかき』は加熱しても身が縮みにくいことが自慢。プランクトンをたっぷり食べてしっかり育っているから、フライにしたり焼いたり、鍋で煮込んでもプリっプリのままだ。
家庭で簡単に楽しむには「蒸し牡蠣」もおすすめだとか。蒸し器で蒸すのが面倒な人は、フライパンに並べて蓋をして蒸したり、お皿に並べてラップして電子レンジでチンするだけでOK。「蒸されることで甘みが倍増。大粒でも柔らかくて口当たりが良く、何もつけずにそのままで美味しい。牡蠣本来のうま味やジューシーさを堪能できますよ」。
牡蠣が大好きな大河さん。牡蠣漁にたずさわるようになってより一層、愛情がわいて、「美味しいなぁ!」と味わって食べるようになったそう。水揚げされた新鮮な牡蠣は浜沿いに並ぶ加工施設へ。ベテランのむき子さんの手で一粒ひと粒、むき身に加工されるほか、形の良いものだけを選別し、殻付きのまま出荷されるものもある。鮮度を守りつつ商品価値を高めるため、丁寧で迅速な加工技術の向上にも余念がない。
船着き場すぐの場所に並ぶ加工施設 水揚げした牡蠣はすぐ加工場へ、まずは無菌の海水で牡蠣の殻を洗浄※写真はイメージ 熟練したむき子さんによるむき作業。貝柱を切り離すのは簡単に見えて非常にデリケート 早い人では10秒以内で1個むく。身が柔らかく、うま味や甘味が豊かな『坂越のかき』 県内外の様々な飲食店や宿泊施設へ出荷される
赤穂市漁業協同組合 青壮年部の活動
赤穂市には漁師50名ほどの漁業協同組合があり、大河さんはその青壮年部の部長を務める。組合が開催する赤穂唐船サンビーチの潮干狩りの設営準備ほか、青壮年部が特に力を入れているのが沿岸域の泥化対策だ。坂越浦は瀬戸内海でも数少ない生食用牡蠣としての出荷が認められている清浄海域。生食でも問題なく食べられる品質を落とさないため、爪のついた海底防具で泥をのぞいたり、網でゴミをとったり。牡蠣がすくすくと育つように海域清掃を行ない、美しい環境維持に努める。
また加工用に身をむいた後の殻は処理業者に引き取ってもらい、細かく砕いて鶏の飼料に再利用している。殻は何もしなければ廃棄物だが、再利用することでSDGsにもつながるからだ。
「僕達の仕事は自然とのおつきあいで成り立っている。だから地球環境の保全にしっかりと取り組んでいかなければならないと考えています。『坂越のかき』の現在の状態を維持していくことが大切です。良い養殖環境を維持できるように、健全な海、持続可能な牡蠣漁のために自分達が出来ることをしていきたいですね」。
海を大切に考える大河さんら牡蠣漁師達の想いが、『坂越のかき』の“美味しい”を支えている。
「若手ならではの知恵と行動力を活かして、『坂越のかき』のPRや価値向上に取り組んでいきたい」 ミネラル豊富な山水が流れ込む天然の良港
Sustainable
魚食や祭り、日本文化をサステナブル
2022年2月、坂越のメインストリート沿いに、大河水産の直売店「伝馬船(てんません)」がオープン。朝水揚げしたばかりの『坂越のかき』や牡蠣の佃煮などの加工品、赤穂の特産品を販売する。店を切り盛りするのは大河さんの奥さん(敦子さん)のご両親。プレス機で焼いたイカ焼きならぬ牡蠣焼き風な「伝馬焼き」や蒸し牡蠣など、簡単な牡蠣メニューも提供している。
直売店を提案したのは大河さんだ。『坂越のかき』を活用した新事業を創出し、その付加価値を高めるために六次産業化に踏み切った。店を営むことで消費者と直接つながり、牡蠣の美味しさを直接伝えることもできる。町並みや文化財が日本遺産に認定されている坂越で、港と船を行き来して人や物を運ぶ「伝馬船」や、「坂越の船祭り」に欠かせない「櫂伝馬(かいでんま)」のような存在になれればとの想いを込めて、この店名にしたという。大河さんも奥さんも大の祭り好き。地元の祭りや街並み、魚介を食べる日本の食文化を伝え、守っていきたい。二人の熱い心意気が、街を盛り上げていく。
坂越の船祭りの時期になるとココロ踊るという大河さん
基本データ
●伝馬船
兵庫県赤穂市坂越2175
0791-56-6628
Webサイト:https://www.instagram.com/tenmasen_oyster/
10:00~16:00(シーズン中の牡蠣販売は~15:00)
火・水曜定休
見習いR.O.
若輩者ですが、頑張ります👍